複数の振動子系が相互作用を及ぼすとき、その運動を連成振動と呼びます。連成振動は例として格子振動と呼ばれる固体中の原子の振動に近似でき、固体物理の分野でモデルとして使われます。ここでは3つの質点がばねによってつながれた場合の連成振動について考えていきます。
3質点系の連成振動

上図のように壁とばねでつながれている3質点系を考えます。
3つの質点の質量は全てm、ばね定数は全てkとします。
3質点の平衡位置からの変位をx1,x2,x3と表すと、各質点に対して、
md2x1dt2=−kx1−k(x1−x2)md2x2dt2=−k(x2−x1)−k(x2−x3)md2x3dt2=−k(x3−x2)−kx3
のような運動方程式が成り立ちます。これらの式を整理すると、
md2x1dt2=−k(2x1−x2)md2x2dt2=−k(2x2−x1−x3)md2x3dt2=−k(2x3−x2)
となります。この運動方程式を解いていきます。これらの解を
x1=A1eiωt,x2=A2eiωt,x3=A3eiωt
と仮定すると、式(4)を式(1)(2)(3)に代入して、
m(iω)2A1eiωt=−k(2A1−A2)eiωtm(iω)2A2eiωt=−k(2A2−A1−A3)eiωtm(iω)2A3eiωt=−k(2A3−A2)eiωt
となります。これらの式を整理すると、
{−mω2A1=−k(2A1−A2)−mω2A2=−k(2A2−A1−A3)−mω2A3=−k(2A3−A2)⇔{(2k−mω2)A1−kA2=0−kA1+(2k−mω2)A2−kA3=0−kA2+(2k−mω2)A3=0
となります。A1=A2=A3=0以外の解を持つ条件は、A1、A2、A3の係数行列式が0という条件で与えられるので、
|2k−mω2−k0−k2k−mω2−k0−k2k−mω2|=0
となります。この行列式を計算すると、
(2k−mω2)|2k−mω2−k−k2k−mω2|−(−k)|−k0−k2k−mω2|=0(2k−mω2){(2k−mω2)2−(−k)2}+k{−k(2k−mω2)}=0(2k−mω2){(2k−mω2)2−(−k)2−k2}=0(2k−mω2)(2k2−4kmω2+m2ω2)=0
となり、式(5)を満たすωの値として、
ω1=√2−√2ω0ω2=√2ω0ω3=√2+√2ω0
が得られます。ただし、ω0≡√k/mとします。
ここでω1,ω2,ω3のそれぞれ場合におけるx1,x2,x3を求めていきます。
(1)ω=ω1のとき
式(12)より、A1:A2:A3=1:√2:1となります。
一般にx1=A1eiωt,x2=A2eiωt,x3=A3eiωtが解ならば、x1=A∗1e−iωt,x2=A∗2e−iωt,x3=A∗3e−iωtも解になっていることを用いると、A1=a1eiθ1(a1,θ1:実数)とおいて実数解は
x1=a1cos(ω1t+θ1)x2=√2a1cos(ω1t+θ1)x3=a1cos(ω1t+θ1)
が得られます。
(2)ω=ω2のとき
式(12)より、A1:A3=1:−1,A2=0となります。
よってこの場合、A1=a2eiθ2(a2,θ2:実数)とおいて実数解は
x1=a2cos(ω2t+θ2)x2=0x3=−a2cos(ω2t+θ2)
が得られます。
(3)ω=ω3のとき
式(12)より、A1:A2:A3=1:−√2:1となります。
よってこの場合、A1=a3eiθ3(a3,θ3:実数)とおいて実数解は
x1=a3cos(ω3t+θ3)x2=−√2a3cos(ω3t+θ3)x3=a3cos(ω3t+θ3)
が得られます。
以上より一般解は、3つの独立な解の重ね合わせから、
x1=a1cos(ω1t+θ1)+a2cos(ω2t+θ2)+a3cos(ω3t+θ3)x2=√2a1cos(ω1t+θ1)−√2a3cos(ω3t+θ3)x3=a1cos(ω1t+θ1)−a2cos(ω2t+θ2)+a3cos(ω3t+θ3)
となります。この式の未知数a1,a2,a3,θ1,θ2,θ3は初期条件t=0におけるx1,x2,x3,dx1/dt,dx2/dt,dx3/dtによって一意に定まります。以上より各質点の運動は3つの単振動の重ね合わせで表せることがわかりました。このような複数の単振動の合成で変位が表されるときのそれぞれの振動のことを基準振動と呼びます。基準振動のパターンについて考えます。
(a)a1≠0かつa2=a3=0のとき
3つの質点はすべてcos(ω1t+θ1)に比例する単振動を行い、その振幅の比はa1:√2a1:a1=1:√2:1となります。
(b)a2≠0かつa1=a3=0のとき
両端の質点はcos(ω2t+θ2)に比例する単振動を行い、その振幅の比はa2:−a2=1:−1であり、中央の質点は振幅0で固定されたような状態となります。
(c)a3≠0かつa1=a2=0のとき
3つの質点はすべてcos(ω3t+θ3)に比例する単振動を行い、その振幅の比はa3:−√2a3:a3=1:−√2:1となります。
これらの基準振動を図示すると下図になります。最初の図のように本来は横方向に質点が移動するのですが、振動の様子を見やすくするために、右方向への変位を上、左方向の変位を下として書き直しています。
